筋萎縮性側索硬化症 (ALS)





1. 筋萎縮性側索硬化症とは?
 
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。
しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ栄養している運動神経細胞が
死んでしまうために筋肉がやせて力が弱くなっていくのです。



2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
 
 1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり約1人です。
全国では4、5千人の患者さんがいると考えられています。



3. この病気はどのような人に多いのですか?
 
 男女比は約2:1と男性に多く認めます。この病気に最もかかりやすい年齢層は
50−60歳台です。特定の職業の人に多いということはありません。



4. この病気の原因はわかっているのですか?
 
 原因は不明です。興奮性アミノ酸の代謝に異常があるとの学説や自己免疫病であるとの
学説がありますが、結論は出ていません。スーパーオキシド・デスムターゼは
フリーラジカルであるスーパーオキシドを処理する酵素ですが、
家族性ALSの約2割ではこの酵素の遺伝子に異常が見つかっています。



5. この病気は遺伝するのですか?
 
 多くの場合は遺伝しませんが、5〜10%は遺伝することが分かっており、
そのうちの2割は上で触れたスーパーオキシド・デスムターゼの遺伝子異常が原因となっています。



6. この病気ではどのような症状がおきますか?
 
 多くの場合は、手指の使いにくさや肘から先の筋肉のやせで始まります。
話しにくい、食べ物が のみ込みにくいという症状で始まることもあります。
いずれの場合でも、やがては全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、
歩けなくなって最後は寝たきりとなり、水や食べ物ののみこみもできなくなります。
一般に、進行しても感覚や知能は侵されにくく、眼球運動障害や失禁もみられにくい病気です。



7. この病気にはどのような治療法がありますか?
 
 ALSの進行を遅らせる作用のあるリルゾールという薬が日本でも承認されました。
ALSにともなって起こる痛みに対しては痛みどめを飲むことや適度のリハビリが有効です。
体が自由に効かないために起こる不眠には睡眠薬をのむという対症療法が基本です。
 息苦しさに対しては、鼻マスクによる非侵襲的な呼吸の補助と気管切開による侵襲的な
呼吸の補助があります。飲み込みにくさがある場合には、後に述べるような食物の形態を
工夫(原則として柔らかく水気の多いもの、味の淡泊なもの、冷たいものが嚥下しやすい)する、
少量ずつ口に入れて嚥下する、顎を引いて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方に注意することが有用です。
飲み込みにくさがさらに進行した場合には、皮膚や鼻を介して管から流動食を補給したり
点滴による栄養補給などの方法があります。



8. この病気はどういう経過をたどるのですか?
 
 この病気は常に進行性で、一度この病気にかかりますと症状が軽くなるということはありません。
体のどの部分の筋肉から始まってもやがては全身の筋肉が侵され、
最後は呼吸筋も働かなくなって呼吸不全で死亡します。病気になってから死亡までの期間は
おおよそ3〜5年ですが、中には長期間ゆっくりと進行する例もあります。
重要な点は、患者さんごとに経過が異なることで、患者さん毎の対応が必要となります。



 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の食事・栄養について

 私たちは毎日炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミンなどの栄養素と水分を十分にとる必要があります。
筋萎縮性側索硬化症の患者さんの場合、次のようなことがもとでこれらの栄養や水分が不足しがちになります。
第1には、のみ込む働きそのものが悪くなること(嚥下障害)です。
そうなりますと食事に時間がかかって疲れてしまったり、食べ物が気管に入ってむせて苦しむ(誤嚥)ようになります。
そのために食事の楽しみは失われ、逆に患者さんは食事をいやがるようになり、
その結果、十分な量の食べ物や水分がとれなくなります。
第2には、手や腕の力が弱くなるためにすぐ疲れてしまい、
十分な量の食べ物や水分を口に運べなくなります。
3番目には、手足の力が弱くなって用便に介助が必要になりますと、
トイレの回数を減らそうとして飲む水の量を意識的に減らしてしまいます。
 ここでは、栄養不足・水分不足の最大の原因である嚥下障害の対策について述べます。
その目標は十分なカロリー、栄養、水分をとることと誤嚥を防ぐことです。
栄養をとるためには少量で必要な栄養がまかなえるように
高カロリー、高蛋白の食べ物をとることです。同時にビタミンやミネラルもとるように注意します。

 ※ 誤嚥を防ぐには食事の仕方を工夫する方法と、食べ物の形態を工夫する方法とがあります。


食事の仕方
 食事時にはできるだけ上体を起こし、
 食事を終えた後も1時間位その姿勢でいることが望まれます。
 一度に口に入れる食べ物や汁物は少なくし、固形物と汁物を
 交互にとるのが大切です。あごを引いて呑み込むとむせが少なくなります。
 座れない人はあおむけで上体を30−40度起こし、
 頭の下に枕をして頭が少し持ち上がるようにすると良いでしょう。
 食事回数を増やして1回の食事量を減らすのも良い方法です。
食べ物の形態
 最も良いのは柔らかくて水気があり、かつ滑らかな食べ物です。
 肉や果物はピューレにして柔らかくします。
 パンはミルクその他の適当な飲み物に浸してから食べるようにします。
 缶詰は柔らかくて水分が多いため良い食品です。
 さらさらした液よりもとろみのある液の方がのみ込みやすいので、
 すり潰したじゃがいもを加えるなどして
 汁物にはとろみを持たせると良いでしょう。
 液体は室温のままよりも、冷やした方が飲み込やすくなります。






 情報提供者  
   研究班名 神経変性疾患に関する調査研究班
   情報更新日 平成15年10月1日





厚生労働省難治性疾患克服研究事業  
難病情報センターホームページから引用



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