副腎白質ジストロフィー



1. 副腎白質ジストロフィーとは?
 
 中枢神経系(脳や脊髄)において脱髄(神経線維を覆っている髄鞘と呼ばれる
さやの部分(電線に例えれば銅線が神経でその被覆の部分)の崩壊が起こる病態)や
神経細胞の変性を主体とし、かつ、腎臓の上にありホルモンを産生している副腎という
臓器の機能不全も伴う疾患です。男性におこる遺伝病のひとつです。
中枢神経系白質、副腎皮質、血清、白血球、赤血球など全身の組織において
極長鎖脂肪酸と呼ばれる脂肪酸の増加を認めます。



2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
 
 男子2〜3万人に一人の割合と考えられます。
ほぼ同数の女性の保因者がいらっしゃると考えられます。
通常、女性の方は症状を示しません。 



3. この病気はどのような人に多いのですか?
 
 主として男性の方におこる遺伝性疾患です。女性の方は保因者といって異常のある遺伝子を
持っていますが、通常は問題となるような症状はありません。
まれに(15%程度の方)成人期以降に軽い神経症状をきたします。
異常な遺伝子をもつ男性の方の40%は小児、思春期までに大脳型と呼ばれる症状で発症します。
症状は多くは急速に進行します。神経症状を呈する人の割合は年齢を経るごとに増加します。
成人では下肢のつっぱり感、歩行障害を主体とする神経症状が出現し50歳台までに
ほぼ全員の方が何らかの神経症状を示します。
成人の方の10〜20%が大脳型に移行することがあると考えられます。



4. この病気の原因はわかっているのですか?
 
 X染色体(男性では1つ、女性では2つ持っています)に存在するALD遺伝子の異常によりおこる
遺伝病の一つです。原因となる遺伝子のつくるタンパク質はALDPと呼ばれています。
これは細胞内にあるぺルオキシソームという細胞内の小器官の膜に存在するタンパク質です。
ぺルオキシソームへの物質の移送に関わっていると考えられていますがどのようなものを
移送しているかはわかっていません。
また、このタンパク質の異常がどのように病態へつながるのかは
まだよくわかっていません。



5. この病気は遺伝するのですか?
 
 ヒトは、母親、父親から23本の染色体を受け継ぎ、常染色体、性染色体について2組の染色体を
持っています。この仕組みにより、たとえ片方の遺伝子に異常があっても、もう片方の遺伝子が
正常に機能してその機能を補うことにより、通常は深刻な症状を起こさないようにできています。
このように、その遺伝子の一つの異常だけでは症状は示しませんが、両方とも異常であった場合には
重篤な症状を示すものを劣性遺伝子といいます。

このような劣性遺伝子の異常は誰でも持っています。通常は一人あたり15〜20個は持っていると
推定されています。たまたま両親から引き継いだ遺伝子が両方とも異常であった場合、
この遺伝子がうまく働かないために病気になります。
このような形で発症する病気を劣性遺伝病といいます。

 副腎白質ジストロフィー症では原因となる遺伝子が性を決める染色体(X染色体)上に存在します。
男性は通常X染色体は一つしか持ちません(女性は2個)そのためX染色体上に異常遺伝子がある場合、
補助するもう片方のX染色体がないので、男性は女性に比して発症しやすくなります。
このような遺伝形式をX連鎖性劣性遺伝形式といいます。遺伝子異常をもつ女性を保因者といいます。
女性保因者は健常なX染色体と病因遺伝子のあるX染色体の2つをもっており、
どちらか一方が子供に伝えられるので1/2の確率で子供に遺伝します。

ただし発症するのは子供が男児の場合であり、女児である場合は1/2の確率で保因者となります。
一方発症した男性からその方の男の子に遺伝子が伝わることはありません。
一方女児は100%保因者となります。保因者の方が男のお子さんを出産された際は、
本症について詳しい医師に相談されることをお勧めします。ALD遺伝子の異常を有する男児の場合、
3歳までに発症することはほとんどありません。しかし、それ以降は発症の可能性が出てきますので、
定期的な医療機関での精密検査をお勧めします。



6. この病気ではどのような症状がおきますか?
 
 小児で発症する場合は、知能低下(学力の低下)、行動の異常(学校の落ち着きのなさ)、
斜視、視力・聴力低下、歩行時の足のつっぱりなどの症状で発症することが多いです。
症状は進行性でコミュニケーションがとれなくなり、通常1〜2年で臥床状態となります。
 成人で発症する場合には歩行障害を主徴として知覚障害、尿失禁、インポテンツなどをきたし
知能低下をきたさない慢性の経過をとるAdrenomyeloneuropathy(AMN)というタイプと
小児と同様に知能低下を主徴とし急速に進行し植物状態にいたるタイプ(成人大脳型)があります。
その他、思春期に発症する思春期型、ふらつき(小脳失調)を初発とする小脳・脳幹型などがあります。
女性保因者は通常発症しませんが、
中高年以降に軽度の歩行異常(足のつっぱり)を認める場合もあります。



7. この病気にはどのような治療法がありますか?
 
 小児型で発症早期の場合には造血幹細胞移植の効果が報告されています。
移植後1〜2年は症状が緩徐ではありますが進行しますが、その後停止する例が多いようです。
ただし、ある程度症状が進行した場合には増悪する場合もあり、
また本治療法自体の危険度もあるため本治療法の選択には慎重な検討が必要です。
 成人発症の場合は造血幹細胞移植は成功率が低いので適応になりません。
歩行障害を主徴とするAMNでは歩行時の足のつっぱりを緩和する抗痙縮薬の内服が行われます。


 本症では血清中の極長鎖調査脂肪酸の増加が知られており診断にも活用されています。
これを正常化させるLorenzo’s oilとよばれる油を1日30ml程度服用していただくことがあります。
しかしLorenzo’s oilは極長鎖脂肪酸は正常化しますが一端発症した神経症状の進行を
抑制する効果はないという報告が多くなってきています。
未発症者やAMNの方の大脳型への進展の予防効果に関しては言及できるだけの報告はありません。
保険適応はありませんので、アメリカから個人輸入するか、
もしく新潟大学で代理輸入をしておりますのでお問い合わせください。代金は実費です。

 また公的支援としては小児慢性特定疾患、成人の場合でも2000年4月より特定疾患
指定されていますので、申請により医療費の公費負担が受けられます。
また身体機能障害の程度に応じて身体障害者申請をおこない介護用品の支援などが受けられます。

 最後になってしまいましたが、家庭および医療機関での手厚い介護が重要です。



8. この病気はどういう経過をたどるのですか?
 
 小児発症の場合では急速に進行し、一般に1〜2年で植物状態になります。
成人発症の場合は病型により大きく異なり、大脳に病変をもち知能低下を呈する場合(成人大脳型)は
小児同様に急速な進行を呈し植物状態となることが多いようです。
一方、Adrenomyeloneuropathy(AMN)とよばれる病型では
一般に進行は緩徐で生命予後も良いといえます。





 情報提供者  
   研究班名 神経・筋疾患調査研究班(神経変性疾患)
   情報更新日 平成14年6月1日
 




厚生労働省難治性疾患克服研究事業  
難病情報センターホームページから引用



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