全身性エリテマトーデス (SLE)




1. 全身性エリテマトーデスとは?
 
 この病気は、英語でsystemic lupus eryhtematosusといい、
その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。
systemicとは、全身のという意味で、この病気が全身のさまざまな場所に、
多彩な症状を引き起こすということを指しています。
lupus erythematosusとは、皮膚に出来る発疹が、狼に噛まれた痕のような
赤い紅斑であることから、こう名付けられました(lupus、ループス:ラテン語で狼の意味)。
発熱、全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、内臓などの
さまざまな症状が一度に、あるいは次々に起こってきます。
その原因は、今のところわかっていませんが、免疫の異常が病気の成り立ちに
重要な役割を果たしています。



2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

頻度 : 日本全国に2万人〜4万人程の患者さんがいると考えられています。
難病の申請をしている方は、43,177(平成8年)ですが、申請をしていない方、
医療機関に受診していない方などを含めると、
この2倍位の人がこの病気をもっていると推定されています。
疫学 : たくさんの人種が生活しているアメリカ合衆国での調査によると、
この病気は、白色人種には比較的少なく、アメリカインディアンなどの
有色人種に多いといわれています。ある特定の地域での発生も報告されていますが、
日本においては、地域差などは見られません。
また、輸血によって病気が起こったという報告もなく、
特別な環境が病気の発症に関係しているという証拠は見つかっていません。



3. この病気はどのような人に多いのですか?

男女比 : 平均すると男女比は1:9ほどで、圧倒的に女性に多い病気です。
なかでも生理が始まってから終わるまでの期間に多く、子供、老人では、
逆に男と女の差が少なくなります。
発症年齢 : すべての年齢に発症しますが、15才から65才までの、
子供を産むことの出来る年齢に多く起こります。



4. この病気の原因はわかっているのですか?
 
原因 : 多くの研究が世界的に行われていますが、
残念ながら今のところはその原因はわかっていません。
ただ、自分自身の体を、自分自身の免疫系が、攻撃してしまう病気です。
本来なら、免疫とは、自分の身を細菌やウイルスなどから守ってくれる
大切な役割をしているのですが、この病気にかかると、
この免疫力が自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こします。

誘因 : 何かのきっかけによって、病気が起こったり、あるいは病状が悪化したりすることがあります。
そのきっかけになるもの(誘因)がいくつか知られています。
紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)、風邪などのウイルス感染、
怪我、外科手術、妊娠・出産、ある腫の薬剤などが、知られています。

病態 : 自分自身の体に対する免疫は、血液中の抗体を調べることによって、
判断できます。この病気の患者さんの95%以上が、血液中に、抗核抗体という抗体をもっています。
自分自身の細胞のなかにある核と反応してしまう抗体です。
この抗体が、自分の細胞の核と反応し、免疫複合体という物質を作って、
全身の皮膚、関節、血管、腎臓などにたまって病気が引き起こされると考えられています。
このほか、免疫を司るリンパ球も直接、自分の細胞、組織を攻撃すると考えられています。



5. この病気は遺伝するのですか?
 
この病気のお母さんから生まれる子供の発症頻度 : この病気を持っているお母さんから、
どの位の頻度でこの病気の子供が生まれるか、詳しい統計は難しく、きちんとした成績がありません。しかし、その頻
度は、低いながらも、一般のひとの発症頻度よりも高いと考えられています。
一卵性双生児 : 遺伝子が同じと考えられる一卵性双生児では、
どの位の割合でこの病気が起こるのでしょうか。多くの報告では、
30%程度とされています。ですから、遺伝子が同じでも30%しかこの病気が起こらないといえます。
すなわち、残りの70%は、何らかの環境要因が考えられます。

多発家系 : ただ、この病気を含め自分自身の体に対するする免疫が起こる病気(自己免疫病)が、
親族に多く見られる家系があります。それが、どのような遺伝子と関係しているか、
世界中で研究が行われています。その候補となる遺伝子がいくつか報告されています。



6. この病気ではどのような症状がおきますか?
 
 一般的に、全身症状、皮膚関節症状がほとんどの患者さんに見られます。
これに、さまざまな内臓、血管の病気(一人一人異なる)が加わります。
この内臓の症状が全くない軽症のタイプもあります。

全身症状 : 発熱、全身倦怠感、易疲労感など

関節症状 : 手や指が腫れて、痛む関節炎を起こします。
肘、膝などの大きな関節に、日によって場所が変わる移動性の関節炎が見られることもあります。

皮膚症状 : もっとも有名なのは、頬に出来る赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、
蝶型紅斑と呼ばれています 。皮膚をさわると、一つ一つが丸い発疹が、重なりあい、
少し盛り上がっているのが特徴です。同じ、頬に出来るものにも、盛り上がりのない、
ハケで薄紅色の絵の具をぬったような紅斑も見られます。
また、一つ一つが丸く、ディスク状(レコード盤)のディスコイド疹も、この病気に特徴的で、
顔面、耳、首のまわりなどに好発します。

日光感敏症 : 強い紫外線にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水膨れ、あるいは熱が出る人がいます。
このような症状は、日光過敏症といい、この病気でよく見られます。
この症状が、病気の始まりであることも少なくありません。しかし、この病気以外にも、
日光過敏症を起こす病気がいくつかありますので、それらとの区別が必要です。

口内炎 : 多くは、口の奥、頬にあたる部位や上顎側に出来る粘膜面がへこんだもので、
痛みが無く自分で気付かないことがしばしばです。
痛みを伴うベーチェット病の口内炎と対照的です。

脱毛 : 朝起きたときに、枕にこれまでなかったほどたくさん髪の毛がつくようになります。
また、円形脱毛のように、部分的に髪の毛が抜けたり、全体の髪の量が減ったりすることもあります。
また、髪が痛みやすく、髪の毛が途中から折れてしまう人もいます。

臓器障害 : 様々なものが知られています。すべての症状が起こるわけではなく、
一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の数が違います。
(全く臓器障害のない、軽症のひともいます)。



7. この病気にはどのような治療法がありますか?
 
 副腎皮質ステロイド剤:自分自身に対する免疫を抑えるため、免疫抑制効果のある薬を使います。
なかでも、副腎皮質ステロイド剤は、特効薬として知られています。
病気の重症度によって、その薬の量が違います。この薬剤は、副腎皮質という場所から出ている
ホルモンを、化学的に作ったもので、代表的なものはプレドニゾロンです。
一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、
自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。
一般的に、重症のかたでは、一日50〜60mgを必要としますし、
逆に軽症の人では15mg程度で十分のこともあります。最初2週間から一ヵ月この量を続け、
徐々に減らして10mg前後を長期に飲み続けます。

免疫抑制剤 : 副腎皮質ステロイド剤が、効果不十分か、副作用が強い場合に、
免疫抑制剤を使うことがあります。アザチオプリン(イムランなど)、
サイクロプォスプァミド(エンドキサンなど)、ミゾリビン(ブレジニン)、
サイクロスポリンA (サンヂュミン)などです。

ステロイドパルス療法:副腎皮質ステロイドを、点滴で大量に使用する方法です。
口から飲むより、より早く、かつ効果も高いとされており、重症度のかなり高いかたに使われます。
一般的には、三日間の使用ですので、この間副作用も比較的少ないとされています。
その後は口からの服用に切り替えます

体外循環療法 : 血液中の病気を引き起こしている免疫複合体やリンパ球を、体の外に取り出して
これをフィルターを使って取り除く治療法です。ステロイドや免疫抑制剤がどうしても使用できない、
あるいは効果が不十分な場合に使われます。

抗凝固療法 : 血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併しているひとでは、
小児用バッファリン、ワーファリンなどによって、血栓の予防が行われます。

支持療法、対症療法 : 腎不全のときの透析療法など、その病状に合わせて治療が行われます。
また、血行障害の強いひとでは、血管拡張剤などが使われます。



8. この病気はどういう経過をたどるのですか?
 
 病型、重症度によって異なる : 臓器障害の広がり、重さによって、病気の重症度が異なります。
関節炎や皮膚症状だけのひとは、薬剤によるコントロールもつけやすく、
健康な方とほとんど変わらない、普通の生活が出来ることも珍しくありません。
一方、腎臓、中枢神経、血管炎などでは、多種類の薬剤を、大量に、しかも長期にわたって
使わなければならないことがあります。したがって、一口に全身性エリテマトーデスといっても、
その病気の広がり、重症度によって、その後の経過は、全く異なります。
しかし、そのコントロールは年々改善され、数十年もこの病気と付き合っている患者さんも増えてきました。
そのため、高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、高血圧など)などに対する
対策も必要です。

薬剤反応性、予後 : 副腎皮質ステロイド剤が、この病気の特効薬として知られています。
この薬が知られていなかった、1950年代に比べ、この病気のコントロールは、飛躍的に進歩しました。
この頃には、5年以上生き延びる人は50%程とされていましたが、現在では90%以上にまで
改善しています。しかし、病型によって、ステロイド剤の効きやすいもの、効きにくいものがあります。
免疫抑制剤が使われるようになって、病気のコントロールはさらに良好になってきています。





 情報提供者  
   研究班名 免疫疾患調査研究班(自己免疫疾患)
   情報更新日 平成14年6月1日
 




厚生労働省難治性疾患克服研究事業  
難病情報センターホームページから引用


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